帰ってきたら、流しに朝の食器が残っている。頼めばやってくれる。でも、頼むたびに言葉を選ぶのに疲れてしまう。分担を決めたはずなのに、気づけば片方ばかりが動いていて、小さな言い合いが増えていく。共働きの家では、よくある流れです。
ゴミの日を覚えておく、洗剤の残りを見て買い足す。名前のつかない細かな家事は「名もなき家事」と呼ばれ、分担の話からこぼれやすいものです。分け方を何度決め直してもうまくいかないとき、足りないのは話し合いの回数より、話し合う前に机に出しておくものかもしれません。
そもそも、どちらが悪いという話になる前に、何がこじれの元になっているのでしょうか。
けんかになる前に、どこでこじれているかを見る
家事分担の言い合いは、たいてい「やった・やってない」の形で表に出ます。けれども、その手前でこじれている場所は、家によって違います。
数字で見ると、家事の重さはまだ片方に寄りがちです。総務省の令和3年社会生活基本調査では、6歳未満の子どもがいる共働きの夫婦(夫婦と子どもの世帯)の1日あたりの家事関連時間は、夫が1時間55分、妻が6時間33分でした(家事・介護・看護・育児・買い物の合計、週全体の平均。総務省統計局「統計Today No.190」)。内閣府の令和5年版男女共同参画白書は、この年の共働きの家庭でも、家事関連時間の77.4%を妻が担っているとしています。
子どものいない共働き、同居のパートナー、親やきょうだいと暮らす家族では、数字は変わります。それでも「片方に寄る」ことは、どの組み合わせでも起こりえます。寄り方の中身を、4つに分けてみます。
量が片方に寄っている
いちばん分かりやすいのが、家事の量そのものの偏りです。帰りの早いほうが夕食を作り、そのまま洗い物、洗濯物の取り込みまで流れでやっている。平日は気づかないうちに、片方の夜がまるごと家事で埋まっていきます。
量の偏りは、話し合いの前に書き出してみると、たいてい見えるようになります。
見えない家事が、片方の頭の中にある
洗い物や掃除機がけは、やっているのが見えます。見えにくいのは、その前と後ろの仕事です。冷蔵庫に何が残っているかを覚えておく、学校や保育園のお知らせを読んで持ち物をそろえる、詰め替えの在庫を気にかける。
こうした「覚えておく」「気づく」「決める」家事は、やっている本人にしか見えません。片方は「分担している」と思い、もう片方は「全部わたしが段取りしている」と感じる。同じ家にいて、見えている家事の量がちがうのです。
「できた」の基準がちがう
お風呂掃除を任せたのに、排水口の髪の毛が残っている。たたんでくれた洗濯物の形が、自分のしまい方と合わない。やり直すと相手は不機嫌になり、やり直さなければ自分のもやもやが残ります。
どちらの基準が正しいかではなく、その家事の「ここまでできれば合格」が2人で決まっていないことが、こじれの元になります。
頼み方と、返し方でこじれる
「手伝おうか」「言ってくれればやったのに」「やってあげたよ」。悪気のない言葉ほど、言われたほうには引っかかります。家事が自分の仕事ではなく、相手の仕事を手伝うもの、と聞こえてしまうからです。
頼むほうも、疲れているとつい「なんでやってないの」と、責める形で切り出してしまう。言葉のやりとりでこじれているときは、分け方より先に、話す場の作り方を変えたほうが早く落ち着くことがあります。
名もなき家事まで書き出す
4つのどれにも効くのが、家事を書き出して、2人の間に置くことです。頭の中にある家事を紙やスマホのメモに出すと、「やった・やってない」の言い合いが、「これは誰の担当にする?」という相談に変わります。
1つの家事を、工程に割って書く
「ゴミ捨て」と書くと、朝に袋を持って出る数分の仕事に見えます。静岡県の「共家事(ともかじ)スタートブック」は、ゴミ捨てひとつにも、次のような作業がふくまれる例を挙げています。
- ゴミの種類ごとの収集日を覚えておく
- 各部屋のゴミを集める
- ゴミを分別する(ペットボトルはラベルをはがして洗う)
- 新聞や古紙をまとめる
- 収集場所に運ぶ
- ゴミ箱に新しい袋をセットし、袋の在庫を確かめる
書き出すときは、家事の名前で止めずに、こうして工程まで割っておきます。分けるときに「ゴミ出し担当」の範囲がはっきりし、「袋をセットするのは誰?」という小さなもめごとが減ります。
4つの分類と、3つの列で付ける
同じスタートブックの表は、家事を「料理」「洗濯」「掃除」「その他」の4つに分け、料理12・洗濯10・掃除12・その他10の、合わせて44の家事を並べています。その他には、家計の管理、公共料金などの支払い、郵便物のチェックと整理、日用品の補充、電球や電池の交換、宅配便の再配達の依頼、ペットや植物の世話、家族の送迎などが入っています。
この表のよいところは、印を付ける列が「あなた」「パートナー」のほかに、「その他(ほかの家族・家事サービスなど)」の3つあることです。2人のどちらかに割り振るだけでなく、最初から「2人以外」に出す欄があります。

付け方にも、こつがあります。
- 別々に付けてから、見比べる: 1枚を2人で囲むと、声の大きいほうの答えになりがちです。それぞれが自分の印を付けてから並べると、見えている家事のずれがそのまま出てきます
- 1週間だけ、気づいたときに足す: 一度に思い出せる家事には限りがあります。冷蔵庫に紙を貼る、共有のメモを作るなどして、1週間のうちに気づいた家事を書き足していきます
- 毎日か、週に1回か、月に1回かも書く: 項目の数が同じでも、毎日の家事と月に1回の家事では重さがちがいます
自治体のシートを使う手もある
一から作るのが手間なら、自治体が配っているシートを印刷して使えます。静岡県のスタートブックは、県のサイトからPDFで読めます(2026年3月発行)。
岐阜県は「共家事・共育チェックシート」を、夫婦のみの世帯向けの家事編(39問)と、子どもの年齢や多胎児に合わせた家事・育児編(55〜65問)の4種類で作っています。20問に絞ったWEBのツールもあり、答えた点数から家庭のタイプを見る形です。子どものいない共働きでも、家事編がそのまま使えます。
書類の家事は、置き場を1つにする
書き出してみると、郵便物や学校のお知らせ、支払いの書類のように「読んで、覚えて、期限までに動く」家事が、片方に集まっていることがよくあります。書類が一人のかばんや机の上にあるうちは、担当を替えても、もう一人は中身を知りようがありません。
家族のだれでも見られる場所に書類の置き場を作ると、「見る」「決める」の家事を渡しやすくなります。
キングジムのスキットマン 冷蔵庫ピタッとファイル(見開きポケットタイプ)は、裏の強力マグネットで冷蔵庫に貼れる、8つのポケットのファイルです。閉じたときの大きさは高さ32.3×幅25.9cmで、A4の書類がたてに入ります。表紙はホワイトボードになっていて、期限や「誰が出すか」を書いておけます。マーカーは別に用意します。
郵便物や書類をためずに回す置き場の作り方と、捨ててよい時期の目安は、次の記事で紹介しています。

分け方の型を選ぶ
リストができたら、どう分けるかです。家事ごとにばらばらに決めるより、家の暮らし方に合う「型」を先に選ぶと、話がまとまりやすくなります。

まるごと担当にする
「料理はA、洗濯はB」のように、家事のかたまりごとに担当を決めます。工程に割ったリストを使い、「献立を考える」「食材の在庫を見る」「買い足す」まで、その家事の前後をまとめて持つのがこの型の要です。
向くのは、帰る時間や休みの曜日が毎週ほぼ同じ家。こじれやすいのは、担当の家事が相手から見えなくなり、「料理担当はいつも大変」「洗濯は楽そう」と、互いの重さが分からなくなるときです。
曜日や週で交代する
夕食や洗い物を、曜日や週で交代します。どちらも一通りできるようになるので、片方が出張や病気で抜けても家が回ります。
向くのは、シフト勤務などで週ごとに予定が変わる家。こじれやすいのは、交代のたびにやり方や基準がずれるときです。「冷蔵庫の残り物から使う」「洗った鍋は朝までに片付ける」のように、引き継ぎの決まりを短く書いておくと、ずれが小さくなります。
時間帯で分ける
朝の家事と夜の家事で分けます。朝が早い人はゴミ出しと朝食、帰りが早い人は夕食と洗濯の取り込み、というように、それぞれが家にいる時間に合わせて持つ形です。
出る時間と帰る時間が2人で大きくちがう家なら、この型が合います。ただ、片方の残業が続いて夜の家事が積み残されると、こじれやすくなります。夜の家事のうち「翌朝に回してよいもの」を決めておくと、積み残しがけんかの種になりにくくなります。
先に外へ出してから、残りを分ける
2人で分ける前に、家電や外のサービス、ほかの家族に出せる家事を、リストの「その他」の列に移してしまいます。残った家事だけを2人で分けるので、分担の総量が小さくなります。
2人とも帰りが遅く、どう分けても夜が足りない家に向く型です。つまずくとすれば、お金をかけることへの考えが2人でちがうとき。何にいくらまでなら出せるか、先に上限を決めておくと話が進みます。
型は1つに決めなくてかまいません。料理は時間帯で、掃除は週で交代、ゴミと日用品の補充はまるごと担当、と組み合わせてもよいのです。
運営者の場合:ご飯は、作る人と洗う人で分ける
わたしの家では、ご飯を作る人と、食べたあとに洗う人を分けています。掃除は担当を決めておらず、手が空いているときや、時間のある人がやっています。
家事の量そのものを減らす考え方や、食洗機などの家電を入れる順番は、次の記事で紹介しています。

けんかにならない話し合いの進め方
リストと型がそろっても、話し合いがけんかになっては先へ進めません。話の中身より、始め方と終わり方で決まる部分が大きいものです。
疲れていない時間に、先に約束して始める
平日の夜、食器を洗いながら「ちょっと話があるんだけど」。これでは、どちらも身構えます。休日の昼など、2人とも疲れていない時間を選び、「土曜の午前に、家事の分け方を30分だけ話したい」と先に伝えておくと、相手も準備ができます。
不満がたまっているときほど、その場で切り出したくなります。そういうときこそ、時間をずらすほうが話は短く済みます。
相手ではなく、リストを見て話す
「あなたは何もしない」と言うと、相手は自分がやっている家事を並べて言い返すしかなくなります。間に置いたリストを2人で見ながら、「この家事は今だれがやっている?」「これはどうする?」と、家事を主語にして話すと、責める・守るのやりとりになりにくくなります。
言い方も、「なんでやってないの」より「ゴミ袋のセットまで頼めると助かる」のように、してほしいことを具体的に伝えるほうが通ります。
1回で全部決めない
44の家事を一度に全部決めようとすると、話が長くなり、最後は疲れてどちらかが折れます。1回目は、いちばん不満の大きい家事を3つだけ選び、その担当と範囲を決めるくらいで十分です。残りは、次の話し合いに回します。
家事ごとに「合格ライン」を決める
静岡県のスタートブックは、「ここまでやればOK」という基準を共有し、完璧主義を手放すことをすすめています。合格ラインは、家事ごとに一言で決めておくと使いやすくなります。
- 洗い物: 寝る前に流しを空にする(拭いてしまうのは翌朝でよい)
- お風呂: 排水口の髪の毛まで取る
- 洗濯物: たたむのは各自。取り込んだらそれぞれのカゴに入れる
合格ラインに届いていれば、やり方には口を出さない。これを2人の約束にしておくと、「やり直し」をめぐるもめごとが減ります。
決めたことは、見える所に書いておく
話し合いで決めたことは、時間がたつと記憶がずれます。担当と合格ラインを短く書いて、冷蔵庫や洗面所など、2人が毎日見る場所に貼っておきます。今週の交代や、買い足す物を書き足せる場所があると、口で伝える回数も減ります。
壁に直接貼るなら、いろどりグッズのファミリーカレンダー。A2サイズ(幅約45×高さ約60cm)のホワイトボードのシールです。家族の予定を1枚にまとめて書く作りで、マーカーが1本付いています。磁石はつきません。はがせるシールですが、壁紙の種類や貼っていた期間によってはきれいにはがれないこともあるので、賃貸では貼る場所を選びます。
分担は、暮らしが変わったら見直す
一度うまく回った分担も、ずっとそのままでは合わなくなります。分担が崩れるのは、どちらかが怠けたからとは限りません。暮らしの形が変わって、決めたときの前提が外れたことが多いのです。
見直しの合図
次のようなことがあったら、分担を見直す時期です。
- 仕事の繁忙期、異動、転職、在宅勤務の日数が変わった
- 引っ越しで、通勤時間やゴミの出し方が変わった
- 子どもの入園・入学、習い事が始まった
- 家族が増えた、親と同居を始めた、だれかが体調をくずしている
- 「やってない」「またやってない」と思う回数が増えてきた
最後の合図は見落とされがちです。不満が言葉になる前の、小さないらだちが続いたら、それも見直しの合図と考えます。
見直しの手順

見直しは、最初の話し合いより軽くて大丈夫です。
- 前に作ったリストに、今の担当で印を付け直す(別々に付けてから見比べる)
- 前と変わった所だけを話す
- 変えるのは1つか2つにして、2週間ほど試す
- 試したあとに、続けるか戻すかを決める
- 決めたことを、見える所の紙やボードに書き直す
季節の変わり目や年度の初めなど、見直す時期をあらかじめ決めておく家もあります。合図がなくても定期的に見直すと、不満がたまりきる前に手を打てます。
担当が回らないときは、仕組みを疑う
決めた担当がたびたび抜けるとき、相手のやる気を責める前に、分け方のほうを見直します。
- 範囲があいまい: 「洗濯」とだけ決めていて、取り込みやたたむのがどちらか決まっていない
- 時間帯が合わない: 帰りの遅い人に、夕方にしかできない家事が割り当てられている
- 量が多すぎる: 担当を決めたあとで、ほかの家事も少しずつその人に寄っている
- やり方を知らない: 洗剤の置き場所や、ゴミの分け方を知らないまま任されている
どれも、リストを見直せば直せる理由です。やり方を知らないときは、一度だけ一緒にやって見せると、次から任せやすくなります。
2人で回らない分は、外に任せる
書き出して、分けて、見直しても、2人の時間が足りない時期はあります。仕事が重なる季節や、子どもが小さいうちは、どう分けても片方か両方の夜が家事で埋まります。分担はあくまで「家の家事を2人でどう持つか」の話で、家事の総量は減らしてくれません。
そんなときは、リストの「その他」の列に移せる家事を、もう一度探します。ほかの家族に頼めること、家電に任せられること、お金を払って人に頼むこと。どれも、どちらかががまんする代わりになる手です。
家事代行は、2人のどちらがやるかでいちばんもめている家事を、まるごと外に出せるのが強みです。担当の取り合いになっていた家事がなくなると、残りの分担の話もしやすくなります。
家事代行で頼める家事や、はじめて頼むときの流れ、会社の選び方は、次の記事で紹介しています。

よくある質問
Q. 相手が話し合いに乗り気でないときは、どうすればいい?
A. 話し合いという形をやめて、リストだけを先に渡す方法があります。「1週間、気づいた家事を書き足してほしい」と頼み、自分も同じように付けておきます。1週間後に2枚を並べると、話し合いを持ちかけなくても、見えている家事のずれが目に入ります。そこから「この3つだけ決めよう」と小さく始めると、身構えられにくくなります。
Q. 家事分担のアプリは使ったほうがいい?
A. 家事の記録や担当の通知を、スマホで共有できるアプリもあります。帰る時間がばらばらで顔を合わせる時間が少ない家や、2人ともスマホでの管理に慣れている家には合います。一方で、記録すること自体が新しい家事になることもあります。紙のリストで書き出して分け方が決まってから、続けるための道具として使うか考えても遅くありません。
まとめ
分け方を何度決め直しても同じ家事でつまずくなら、その家事の工程と合格ラインが、2人の間でまだ言葉になっていないのかもしれません。リストに工程を書き足し、「ここまでで合格」を一言で決めるだけで、同じ担当のままでも言い合いが減ることがあります。
迷ったときの目安は、「その家事の段取りを、片方しか知らない状態になっていないか」です。知っている人が1人しかいない家事から順に、2人とも分かる形にしていくと、どちらが忙しい時期にも家が回ります。

